ナポリ仕立てのスーツはなぜこれほどまでに人気なのか
最近もっとも注目されているスーツといえば、やはりナポリ仕立てのスーツです。
もともと高温多湿な日本の気候に、地中海都市ナポリで作られる軽快なスーツは相性が良く、日本人がナポリ仕立てのスーツを着る理由としては、それだけでも申し分ないでしょう。
しかしこれほどまでにナポリ仕立てのスーツが人気となり、市場にはナポリ仕立てを模した量販スーツが大量に出回っているのは、ナポリ仕立てに人を強烈に惹き付けるような魅力があるからに他なりません。
今回はそんなナポリ仕立てならではの魅力に迫っていきましょう。
ヨーロッパで最も「生きた」都市、ナポリ
ヨーロッパという世界は、多かれ少なかれ過去と歴史の世界です。歴史の中で作り上げられてきた美しい建築物や遺産が街並みを作り、それがそのまま諸都市の魅力や個性となって、世界中から人を呼び寄せているのです。
しかし、そういった都市の中には、過去の遺産ではなく現在に生きるカルチャーで人々を呼び寄せている都市もあります。
例えばスペイン南部のバルセロナ。バルセロナはガウディが数々の美しい建築を残した場所であり、ピカソや様々な偉大なアーティストが活躍した街です。そこには今なお数多く老若男女の芸術家が集まり、その芸術家達がバルセロナという街を非常に文化度の高いアーティストシティへと塗り替え続けているのです。
そしてそのような生きた都市の中にあって、群を抜いた存在感を放つ都市があります。それがナポリです。
ナポリは、イタリアの中でも異彩を放つ都市で、イタリア人にとっても「危ない」「乱雑だ」という声や「美しい」「素晴らしい」という声で意見の別れる特殊な場所です。
このナポリという街にはもちろん歴史の中で作られた遺跡なども残っていますが、フィレンツェに残るルネッサンスの芸術や、ローマに残る古代の遺産のようなボリューム感はありません。
しかし、ナポリには今なお生き続ける文化があるのです。
例えばピッツァ。日本人にとってはイタリア料理というイメージのあるピッツァですが、ヨーロッパの人々にとってはナポリ料理。据え付けのピッツァ釜でこんがりと焼かれる、厚くもちっとしたシンプルなピッツァは、その奥深さで人々を魅了してやみません。誰が呼ぶわけでもないのに、ピッツァ作りの修行をするために世界中から優秀なピッツァ職人が集まってくるほどです。
同じように、世界中が注目しているナポリの文化がナポリ仕立てです。
イタリアに発展したスーツのテーラリングをさらにナポリの独特の発想と手縫いの多様によって進化させたナポリ仕立ては、世界に唯一他に存在しない特異な仕立て方法となりました。このナポリ仕立ては世界中のスーツやジャケットを生み出す人々にとってのスパイスとなって、メンズクロージング世界への影響力を日に日に強めています。
それでは、どうしてナポリ仕立てはそこまで注目されているのでしょうか。
ナポリ仕立てだけのエレガンス
ナポリ仕立てには、実に様々な特徴があります。とはいえナポリ仕立てを語るときに、その仕様を列挙していくのは最善の方法とはいえないでしょう。なぜならナポリ仕立てが世界から絶賛されている最も大きな根拠は、その雰囲気と多様性にこそあるからです。
本物のナポリ仕立ては、ミシンを殆ど用いず、手縫いによって仕立て上げられます。サルトリアは数人のスタッフを雇っていたり、他のサルトリアやボタンホール専門、パンツ専門といった得意分野を持つ下請けの職人に外注をしたりします。そうして手間を掛けて仕立てられるスーツやジャケットは、全てにおいて人の手が動いており、そのおかげでまるで人に寄り添うような柔らかさを持っています。そしてその手縫いの柔らかさは、まさに雰囲気そのものとなって外見に現れます。
ナポリにあるのは本物のエレガンスです。服を服としてだけ捉えるのではなく、その人の生き様すなわちライフスタイルの一環として捉える。より詳しく見ていけば、ハンガーに綺麗に掛けられた服ではなく、その人がお洒落に着こなし、その人に合わせて軽やかに動き周り、景色と美しいコントラストを成している服にエレガンスを感じるのが、ナポリの文化なのです。
さらにナポリ仕立ては雰囲気からぐっと距離を縮め、その着心地で人々を魅了するでしょう。
構築的で無駄の無いミラノ仕立て、まるでデッサンで描いたように曲線的で美しいフィレンツェ仕立て。ナポリ仕立てはそういった他の都市の仕立てに比べると、スタイルに一貫性がありません。サルトリアによっては非常にマスキュリンで男性的なシルエットにもなるし、逆に女性的でなで肩なシルエットにもなります。しかし一貫しているのは、手縫いによる柔らかなステッチワーク、ハンドワークにしかなし得ないボリューム感、それぞれが独自の考えを持って生み出す複雑な立体、そしてそこから生まれる極上の着心地なのです。
ありとあらゆる民族が交錯し、様々な建築様式が乱立する街。多様性が支配するナポリという都市に生まれ育った人々は、どんな常識にも捕われない柔軟な発想力を持っています。そしてその発想力がサルトリアの奇抜とも言えるような仕立てを、サルト(職人)の数だけ生み出しているのです。
この奥深い魅力をもった仕立て服、最近では日本でも容易に体験することができるようになりました。
ぜひ一度、体験してみてください。
ナポリの代表的なサルトリア
Rubinacci ルビナッチ(ロンドンハウス)
Antonio Panico アントニオ・パニコ
Sartoria Costantino サルトリア・コスタンティーノ
Gennaro Solito ジェンナーロ・ソリート
Sartoria Ciardiサルトリア・チャルディ
Sartoria Sabino サルトリア・サビーノ
Sartoria Pirozzi サルトリア・ピロッツィ
Sartoria Dalcuore サルトリア・ダルクォーレ
Orazio Luciano オラッツィオ・ルチアーノ
La Vera Sartoria Napoletana ラベラサルトリアナポレターナ(同上)
Sartoria Caliendo サルトリア・カリエンド
Antonio la Pignola アントニオ・ラ・ピニョッラ
また、以下の二つはナポリ仕立てらしさを非常に巧みに表現した既製服ブランドです。
Cesare Attolini チェザレ・アットリーニ
Kiton キートン
ちなみに、当ページで着用しているスーツやジャケットは以下の通り。
Antonio Panico アントニオ・パニコ(1枚目スーツ)
Sartoria Ciardi サルトリア・チャルディ(2枚目スーツ)
Kiton キートン(下ジャケット)